元SE、畑違いな私が「写真で生きる」決意をするまで

私は今でこそフォトグラファーと名乗っていますが、その前の12年半はSEとして会社勤めをしていました。

そんな畑違いな私がどんなキッカケで写真を仕事にしようと思ったのか、一度ちゃんと文章にしたいと思っていました。

キッカケや伏線的なものは、振り返るといくつもありました。

どんどん書き進めていくと、「写真が持つ力によって写真の道に導かれた」というひとつの筋が見えてきました。

そうそう、写真にはすごい力があります。

それは「自分が大切にしているものに気づける」力です。

その「写真の力」によって、私は写真の道で生きる決意を持てました。

そんな私のストーリー、長い長い文章になってしまいましたが、ぜひ最後までお読みいただけると幸いです!

3人の子どもたちとの慌ただしくも愛おしい毎日

「ママ!クイズ出すね、答えてね、えっとー…」
「ママー!きょうね、先生がね…」
「ママ!おかぁりちょーだい!」

かつて10人の話を同時に聞き取れたという歴史上の人物がいたようだけど、私は毎日のように3人同時に話しかけられているが一向に聞き取れるようにならない。

「ちょっと、待って、待ってね。1人ずつ聞くからね」
「オレが先だし!」
「みこだよ!」
「おかぁりちょーだい!」

9歳の長男、6歳の長女、そして2歳の次男。にぎやかすぎる3人の子どもたちとの生活、これが私の日常だ。

気づくと床に散らばっているおもちゃ、崩れそうな洗濯物の山、服の裾についたカピカピのご飯粒は、きっと多くの人に親しみを持ってもらえるものと思う。

どうしようもなく慌ただしく、とっちらかった毎日。だけど、どうしようもなく愛おしい毎日。

、、、なーんて

母親歴10年目にして、少しはこんな気持ちの余裕をもてるようになった私だけど、最初からこんな感じではなかった。

子どもがかわいいか、わからなかった最初の育児

長男が生後3ヶ月頃のこと、会社の後輩たちがお祝いに家を訪ねてくれた。

「赤ちゃんって夜中何度も泣くって聞いたんですけど本当ですか?」

後輩女子のこんな質問に、

「本当だよ。何度も起こされて寝不足。だけど赤ちゃんかわいいから大丈夫

と答えた直後、胸のあたりにものすごくざわざわっとした違和感を覚えた。これは嘘だ、とすぐにわかった。このときの違和感はいまでも身体にこびりついている。

私は最初の育児のとき、「子どもがかわいい」のかどうかわからなかった。そんな自分は母親としての素質がないのだろうと思っていた。

子どもに合わせた生活も、幼稚な歌や手遊びさえも苦痛に感じた。子どもを笑顔で抱きしめる周りのお母さんを見ては、私はダメだと誰にも言えず落ち込んでいた。

今思えば、赤ちゃんがかわいいかを感じる前に、小さな命を守る責任感に押しつぶされそうな毎日だったんだろう。でも当時の私にとっては落ち込むのに十分だった。

写真を撮り、発表するライフスタイルの始まり

子どもが大きくなり、会話が成立するようになってからは、だんだんと窮屈な気持ちからは解放されていった。でもやっぱり「かわいい」という言葉にはどこか違和感があった。


<マイプロ発表中の私>

二人目の育休中、「母マイプロ」というコミュニティに参加した。それは、育休中のママたちが「マイプロジェクト」を発表し、それに対してアドバイスしたり応援し合ったりする集まり。

私はそのプレゼンの場で「実は写真をもっとちゃんとやりたいと思っている」と発表した。

すると、参加メンバーの勧めであれよあれよと写真ブログを開設することになり、その日から「写真を撮り、発表する」ライフスタイルが始まった。


<当時のブログのヘッダー。イラストは自分で描いた。>

周囲の反応は上々で、より写真を深く学びたいと考えるようになった私は、写真表現を学べる教室に入った。

そこから三年間、カメラの基礎から作品制作に関することを学びながら、写真ブログの更新や写真展への出展など、表現活動に力を注いできた。

「母親の愛情」が感じられる写真?

写真教室では、自分の子どもたちを被写体に作品制作をしていた。私にとって子どもは一番身近で、一番「おもしろい」被写体だった。私が感じる「おもしろさ」を追求する形で制作は進んでいった。

<御苗場vol.17関西 エプソン賞受賞作品の一部>

写真を他人に見てもらう機会が増えたことで、当然ながらさまざまな反応が得られた。

「癒される」
「懐かしい」
「観察するような視点が興味深い」
「母親の愛情を感じる」
あらゆる世代の人の共感を得た。涙ぐむ人もいた。

他人の客観的な視点からの感想は新鮮だった。でもやはり「母親の愛情」という言葉だけは素直に受け取れなかった。

子どもを「かわいい」と思えているか確信のなかった私は、「そういうのとは違う次元で写真を撮っているんだ」と思っていた。

客観的な視点は、子育てをちょっぴり楽にした

三年間で大小合わせて10あまりの写真展で作品を発表してきたが、その度に「母親の愛情」というコメントをもらった。

ここにきてやっと、さすがの私も考え方が変わってきた。

私は私なりの視点と方法で子どもたちと向き合って、表現してきたけれど、客観的に見るとそれは「母親の愛情」と言えるものなのかもしれない。私なりの「愛情」の形がそこにあると認めてしまっていいんじゃないか。

<御苗場vol.20横浜 出展作品の一部>

写真を撮るとき、少なくとも選ぶ段階においては、何かしらの「テーマ」を持って写真を見ることになる。

「私は何を大切に思い、何に惹かれてシャッターを押したのか」「この写真で伝えたいことはなにか」という視点で写真を見たとき、おのずと「私が育児で大切にしていることはなにか」が浮き上がってきた。

そうか私は、子どもが生まれながらに持っている本能的な興味、関心、子どもそれぞれの個性を何より大切にしたいんだ。大人になると社会の枠の中で少なからず矯正されてしまうであろうその子の本質的な部分を大事にしたいし、親のエゴでそれを変えたくない、そのままの素晴らしさを伝えたい。

そんなことを写真を撮ったり、見たりする中で体感するようになった。

あぁ、これが私なりの「親の愛情」なのかも。

と腑に落ちたとき、子育てがちょっぴり楽に感じるようになっていた。

自分に嘘がつけなくなった私は、写真で生きる決意をした

そんな風にして写真は、世界の捉え方を変えてくれた。写真を見ていると、おのずと「自分が大切にしているもの」が見えてくる。気づくとどんどん写真にのめり込んでいた。

3人の子どもを育てながら平日はフルタイムで働いていたので、写真を撮れるのは休みの日だけ。土日に子どもとでかける時には必ずカメラを持っていった。

最初は限られた時間の中でカメラを持てれば十分だった。でも、だんだんとそれでは物足りなくなってきた。

晴れた日に一日中ビルにカンヅメになる日々が嫌だなぁと思うようになった。毎日毎日、同じ電車に乗って同じ場所に通って同じ人と会って仕事するという「安定」した生活で、何かを失っているんじゃないか?と思い始めた。

いや、今までだって違和感はあったはず。気がつかないふりをしていた。

写真によって私は自分に嘘がつけなくなっていた。

「ちゃんと季節を感じながら生きていきたい」
「写真を撮ることを生活の真ん中に据えたい」

そう考えるようになった。

そして私は、12年半勤めた会社を退職し、フォトグラファーとして歩みはじめた。

おわりに

ここまで読んでくださりありがとうございます。

写真を撮ること、写真を撮られること、またその写真を見ることは「客観的に今を見つめる」ことです。

客観的な視点は、私たちに多くのものを与えてくれます。

私の場合は、子育てをちょっぴり楽にしてくれました。イライラしたことも写真になることで「ネタ」として笑い飛ばすことができたし、写真の中の子どもたちはいつもいい顔をしているので「なんか大丈夫かも」と根拠のない自信と安心を得られました。

また、自分が何を大切にしたいかがちゃんとわかるようになり、その道に進む勇気を持てました。これは最大のギフトだったと思います。

そんな私自身の経験から感じているは

「写真の力」は、究極的には自分自身を大切にすることにつながる

ということ。

子育てという「自分以外の誰か」に時間もエネルギーも注ぎ込む時期だからこそ、自分の思いにまずは気づき、そして丁寧に育てていくことを、私たちはもっともっと重要視していいんじゃないでしょうか。

10年前の私のように、子育てこれでいいのかな?と自信が持てなくて、そんな気持ちと葛藤しながらも日々休みなく子どもと向き合っている人には、ぜひ家族写真を撮ってもらってみてほしい。

毎月、毎年、たった一度でもいいから、家族写真を撮り、そして、そこに写る家族やあなた自身の表情や空気感を確かめてみてほしいのです。

「表情固いなー」
「太ったなー」

気づくのはプラスのことばかりじゃないかもしれません。

「結構やさしい表情してる」
「たのしそうにしてる」

そんな風に気づけたらとても幸せです。

その発見や気づきを積み重ねることが、「大切にしてるもの」を見つけるステップになります。

私が撮る写真で一人でも多くの人が「自分が大切にしているもの」に気づいて、小さくても確実な幸せを感じることができたら…

そんなことを願いながら、日々シャッターを切っています。


なかじまさちこ(サチカメ)

田舎暮らしに憧れ、東京から愛媛(西条市丹原町)へ家族5人で移住。念願の自然に囲まれた暮らしを楽しみながら、フリーランスとして出張写真撮影、古民家宿運営サポー...

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